はじめに
2025年参議院選挙において注目を集める新政党「日本誠真会」。歯科医師で歯学博士の吉野敏明氏が2024年10月に立党し、「誠意と真実と敬い」をもって国民と国家に向き合う新しい政治勢力として登場しました。
参政党の元共同代表として政治活動を続けてきた吉野氏が新たに設立した同党は、「改革」ではなく、日本人が本来持っていた幸せな暮らしを取り戻す「原点回帰」を掲げています。医療現場での経験を基に「日本の病を治す」というユニークなアプローチで政治に挑む姿勢は、従来の政治勢力とは一線を画す特徴を持っています。
同党の政策は医療・健康分野から憲法論まで幅広く展開されており、特に食生活の改善を通じた国民の健康回復や、戦後体制からの脱却を目指す政治姿勢が注目されています。今回は、同党のマニフェストを多角的に分析し、その独自性と課題について詳しく検証していきます。
1. 基本理念と政治哲学：「原点回帰」が示す新しい保守思想
日本誠真会の政治哲学は、「誠意と真実と敬い」という基本理念を核としています。同党が重視する価値観は、従来の左右の政治軸とは異なる独特な位置づけを示していると考えられます。
基本理念の構成要素：
- 誠意: 政治における透明性と国民への真摯な姿勢を重視
- 真実: 科学的根拠に基づく政策決定と情報公開の徹底
- 敬い: 日本の伝統文化と祖先への敬意を政治の基盤とする考え方
この理念体系は、現代政治が抱える信頼失墜への対案として提示されています。筆者が注目するのは、医師である党首の経験から導き出された「治療」的アプローチです。社会の問題を「病気」として捉え、根本原因から治療する発想は、対症療法的な従来政治への根本的な批判を含んでいます。これは単なる政治手法の違いではなく、社会問題への認識論的な転換を意味しており、有権者に新鮮な印象を与える可能性があります。
ただし、この「原点回帰」思想は具体的な政策実現の道筋において重要な課題も抱えています。理想論と現実政治のバランスをどう取るかが今後の最大の焦点となるでしょう。
2. 食と健康政策：「医食同源」による国民健康回復戦略
日本誠真会の最も特徴的な政策分野が、「医食同源」の理念に基づく食を通じた国民の健康支援です。同党は食生活の改善を国家戦略として位置づけている点で他党との差別化を図っています。
具体的な取り組み方針：
- 食品安全基準の見直し: 添加物や農薬使用基準の厳格化による食の安全確保
- 伝統食文化の復活: 米を中心とした日本型食生活の推進と食育の充実
- 医療費削減効果: 予防医学的アプローチによる長期的な社会保障費抑制
この政策の背景には、独自の健康理論があります。戦後の食生活変化が日本人の健康悪化を招いたという分析に基づき、根本的な食生活改革を提案しています。筆者の分析では、この政策は単なる健康論を超えて、文化的アイデンティティの回復という側面も含んでいると考えられます。
医療従事者としての専門性を活かした政策提案は説得力がある一方で、科学的根拠の明確化や既存の食品産業への影響など、実現には慎重な検討が必要な側面も含んでいます。特に産業界との調整をどう進めるかが実現の鍵となるでしょう。
3. 憲法・統治機構改革：「真正護憲論」の新解釈
同党の憲法論で注目されるのが「真正護憲論」という独自のアプローチです。真に日本の自主独立を反映した憲法体制への移行を進める姿勢を示しています。
憲法改革の基本方針：
- 戦後体制からの脱却: GHQによる占領政策の影響を排除し、日本固有の価値観に基づく憲法体制の構築
- 皇室制度の重視: 家庭祭祀、氏神祭祀、国家祭祀（天皇祭祀）を中心とした国家観の明確化
- 自主独立の確立: 外国勢力からの影響を排除した真の主権国家としての地位確立
この憲法論は、従来の改憲・護憲論争とは異なる第三の道を提示している点で極めて注目に値します。筆者の見解では、これは政治的ポジショニングとしても巧妙な戦略であり、既存の政治的対立軸から離れた独自の立場を確立する効果があると考えられます。憲法改正ありきではなく、日本の独自性を重視した統治体制の再構築を目指す姿勢は、保守系有権者層に強い訴求力を持つでしょう。
ただし、具体的な改革手順や国際法との整合性など、実現に向けた詳細な制度設計が必要な課題も多く含まれています。
4. 経済・財政政策：国益重視の経済運営方針
日本誠真会の経済政策は、外国勢力から日本の国益を守るという基本方針のもとで展開されています。グローバル化への批判的視点から、日本独自の経済発展モデルを模索する姿勢を示しています。
経済政策の重点分野：
- 産業保護政策: 外資による日本企業買収への規制強化と国内産業の保護育成
- 食料安全保障: 農業政策の見直しと食料自給率向上への取り組み強化
- エネルギー安全保障: 安全保障の観点からのエネルギー政策見直しと対外依存度軽減
経済政策においても「原点回帰」の理念が反映されており、高度経済成長期の成功モデルを現代に適用する発想が見られます。筆者の分析では、この政策は現在の世界的なサプライチェーン見直しの流れとも一致しており、時代の要請に応える側面があると考えられます。しかし、現在の国際経済環境においてこうした政策がどの程度実効性を持つかは慎重な検証が必要でしょう。
5. 外交・安全保障政策：独立自主路線の模索
安全保障分野では、日本の自主独立を重視する立場から、既存の同盟関係や国際枠組みに対して批判的検討を加える姿勢を示しています。
安全保障政策の特徴：
- 対中政策の強化: 中国による経済的影響力拡大への危機感から、より厳格な対中政策を提案
- 国土保全の重視: 外資による土地買収規制や水源保護など、国土の主権確保を優先
- 防衛力整備: 日本独自の防衛力強化と、過度な外国依存からの脱却
同党の外交政策は、現実主義的な安全保障観に基づいており、特に近隣諸国との関係において厳格な姿勢を示しています。筆者の見解では、この政策は昨今の地政学的リスクの高まりを受けて、一定の現実性を帯びてきていると考えられます。ただし、国際協調との兼ね合いや同盟国との関係維持など、バランスの取れた外交戦略の構築が重要な課題となります。
6. 教育・文化政策：伝統文化復興と人材育成
教育分野では、伝統文化の復興を通じた精神的な豊かさの回復を重視する政策を展開しています。現代教育の問題点を根本から見直す姿勢を示している点が特徴的です。
教育政策の重点項目：
- 伝統教育の復活: 日本の歴史・文化教育の充実と価値観教育の重視
- 心の教育: 祭祀を尊ぶ心など、精神的な教育の重要性を強調
- 実践的教育: 偏差値教育からの脱却と、実社会で役立つ人材育成への転換
教育政策においても「原点回帰」の理念が反映されており、戦後教育システムの根本的見直しを提案しています。筆者の分析では、この政策は現代の教育現場が抱える課題（いじめ、不登校、学習意欲の低下など）に対する根本的な処方箋を提示している側面があります。精神性を重視した教育方針は一定の支持を得る可能性がある一方で、現代社会に必要な多様な能力育成との調和が重要な課題となるでしょう。
7. 医療・社会保障制度：予防医学重視の制度改革
医師である党首の専門性を活かした医療政策は、同党の最も強みとなる分野です。従来の治療中心から予防重視への転換を図る政策提案を行っています。
医療制度改革の方向性：
- 予防医学の推進: 病気になってから治すのではなく、病気にならない体づくりを重視
- 代替医療の活用: 西洋医学と東洋医学の融合による総合的な医療体制の構築
- 医療費抑制: 根本的な健康改善による長期的な医療費削減効果を目指す
この分野では党首の専門知識が最大限活かされており、他党では提案困難な実現可能性の高い政策提案が期待されます。筆者の評価では、この政策分野こそが同党の最大の差別化要因であり、有権者へのアピールポイントになると考えられます。ただし、既存の医療制度との整合性や、医療従事者への影響など、慎重な制度設計が必要な側面もあります。
8. 環境・エネルギー政策：国土保全と持続可能性の両立
環境政策では、ウイグル人の血と涙で作られた太陽光パネルへの言及に見られるように、人権と環境保護の両面から政策を検討する姿勢を示しています。
環境政策の特色：
- 国土保全の優先: 外資による太陽光発電事業への規制強化と国土の景観保護
- エネルギー安全保障: 対外依存を減らし、日本独自のエネルギー政策を模索
- 持続可能な開発: 短期的利益よりも長期的な国土保全を重視する開発方針
環境政策においても安全保障の視点が強く反映されており、単純な環境保護を超えた総合的な国家戦略として位置づけられています。筆者の見解では、この政策は環境問題を国家主権の問題として捉え直す新しい視点を提供しており、従来の環境政策論議に一石を投じる可能性があります。
9. 地方創生・人口問題：原点回帰による地域活性化
人口減少と地方衰退という日本の構造的課題に対して、同党は「原点回帰」の理念から独自のアプローチを提案しています。
地方創生政策の特徴：
- 地域伝統の復活: 各地域の祭りや伝統行事を通じた地域アイデンティティの強化
- 家族制度の重視: 三世代同居の推進など、伝統的家族形態の復活による地域結束の強化
- 地域産業の育成: 地域の特性を活かした産業振興と雇用創出
この政策は、過疎化や少子高齢化といった現代的課題に対して、伝統的価値観からの解決策を提示する興味深い試みです。筆者の分析では、この政策は単なる懐古主義ではなく、地域コミュニティの結束力を活用した持続可能な地域発展モデルを目指していると評価できます。効果的な側面もある一方で、現代的ライフスタイルとの調和をどう図るかが重要な課題となります。
10. 政治改革・透明性確保：「嘘をつかない政治」の実現
政治への信頼回復を目指す同党は、あらゆる政策において透明性を確保し、真実に基づいた判断を下すことを重視しています。
政治改革の重点項目：
- 政策決定プロセスの透明化: 政策決定過程の公開と国民への説明責任の徹底
- 利益相反の排除: 議員の兼職制限や政治献金制度の見直しによる透明性向上
- 情報公開の徹底: 政府保有情報の積極的公開と隠蔽体質の改善
政治改革への取り組みは、既存政治への不信が高まる中で確実に一定の支持を得る可能性があります。筆者の評価では、この分野での提案は理念的には優れているものの、実際の政治運営においてこうした理想をどこまで実現できるかが同党の真価を問う試金石となるでしょう。政治家としての実績がない新党だからこそ、この点での信頼性確保が極めて重要になります。
まとめ
日本誠真会のマニフェストは、医師である党首の専門性と「原点回帰」という独自の政治哲学を基盤として構築されています。以下の表で主要政策の特徴をまとめました。
日本誠真会マニフェストの特徴・課題・評価
| 政策分野 | 主な特徴 | 実現上の課題 |
|---|---|---|
| 基本理念 | 「誠意・真実・敬い」による政治刷新 | 理想と現実政治のバランス調整 |
| 食と健康 | 医食同源による根本的健康改革 | 科学的根拠の明確化と産業への影響 |
| 憲法改革 | 真正護憲論による第三の道提示 | 具体的改革手順と国際法整合性 |
| 経済政策 | 国益重視の保護主義的アプローチ | 国際経済環境での実効性確保 |
| 外交安保 | 自主独立路線と対中強硬策 | 国際協調との兼ね合い調整 |
| 教育文化 | 伝統回帰による精神性重視 | 現代社会適応能力との両立 |
同党のアプローチは、従来の政治勢力とは明確に差別化された独自性を持っています。特に医療・健康分野での専門性は他党にない強みとなっており、予防医学的な政策手法は長期的な社会課題解決に寄与する可能性があります。
一方で、「原点回帰」という理念が現代社会の複雑性にどこまで対応できるかは未知数です。グローバル化が進む現代において、内向きとも受け取れる政策が実際にどの程度の効果を発揮するかは慎重な検証が必要でしょう。
政治への信頼回復という観点では、透明性と誠実性を重視する姿勢は評価できます。ただし、理想論にとどまらず、具体的な政策実現能力を示していけるかが今後の発展の鍵となります。新興政党として、既存政治への建設的な批判勢力として機能することが期待される一方で、責任ある政治勢力としての成熟も求められています。
