むかしむかし、深い森の中に、赤茶色のふわふわとしたしっぽを持つキツネのコンタロウがいました。コンタロウは、森の中で一番きれいなしっぽを持っていることを自慢に思っていました。
ある日、コンタロウが川辺を歩いていると、キラキラと光る不思議な石を見つけました。その石を拾い上げると、突然、コンタロウのしっぽが虹色に輝き始めたのです。
「わあ!すごい!」コンタロウは大喜びしました。「これで、もっとみんなに褒められるぞ!」
その日から、コンタロウは虹色のしっぽを自慢して森中を歩き回りました。動物たちは驚いて、コンタロウのしっぽを褒めちぎりました。
「すごいね、コンタロウ!そのしっぽ、どうやって手に入れたの?」とウサギが尋ねました。
コンタロウは少し考えてから答えました。「ああ、これはね、遠い山の頂上で、虹の妖精からもらったんだ。」
ウサギは目を丸くして聞いていました。「へえ、すごいなあ。」
その話を聞いたクマも近寄ってきました。「本当かい?僕も虹の妖精に会いたいな。」
コンタロウは得意げに胸を張りました。「そうさ。でも、その山に行くには、三日三晩眠らずに歩き続けなきゃいけないんだ。」
動物たちは次々とコンタロウの周りに集まり、虹色のしっぽの話に聞き入りました。コンタロウは嘘を重ねるうちに、自分の話がどんどん大げさになっていくのを感じました。でも、みんなが褒めてくれるので、やめられなくなっていました。
しかし、数日後、不思議なことが起こりました。コンタロウのしっぽが、少しずつ色あせていったのです。最初は気づかなかったのですが、やがて虹色だったしっぽが、くすんだ灰色になってしまいました。
コンタロウは慌てて川に行き、水面に映る自分の姿を見ました。そこには、みすぼらしい灰色のしっぽを持つキツネが映っていました。
「どうしよう...」コンタロウは困りました。「みんなに嘘をついてしまった。このしっぽのことを聞かれたら、何て答えればいいんだろう。」
悩んだ末、コンタロウは正直に話すことにしました。勇気を出して、動物たちの前に立ちました。
「みんな、聞いてください。」コンタロウは震える声で言いました。「実は、僕のしっぽの色のこと、嘘をついてしまったんです。本当は川で不思議な石を見つけただけなんです。虹の妖精なんていなかったし、遠い山に行ったわけでもありません。みんなに褒められたくて、つい...ごめんなさい。」
動物たちは驚いた様子でしたが、意外な反応を示しました。
「正直に話してくれてありがとう、コンタロウ。」クマが優しく言いました。「嘘をつくのは良くないけど、勇気を出して本当のことを話してくれたのは立派だよ。」
ウサギも頷きました。「そうだね。嘘をつくより、本当のことを言う方が大切だってことがわかったね。」
コンタロウは、動物たちが怒らなかったことに安心しました。「みんな、許してくれるの?」
「もちろんさ。」リスが言いました。「でも、これからは正直でいてね。」
その時、不思議なことが起こりました。コンタロウのしっぽが、元の赤茶色に戻り始めたのです。それを見た動物たちは歓声を上げました。
「見て!コンタロウのしっぽ、元に戻ってる!」
コンタロウは驚いて自分のしっぽを見ました。確かに、あの美しい赤茶色が戻ってきていました。
「わあ!本当だ!」コンタロウは喜びました。
その日から、コンタロウは正直であることの大切さを学びました。たとえ自慢できることがなくても、本当のことを言う方が、みんなから信頼されて幸せになれることがわかったのです。
時々、コンタロウは川辺に行って、あの不思議な石を探すことがありました。でも、二度と見つかることはありませんでした。それでも、コンタロウは気にしませんでした。なぜなら、本当の自分でいることの方が、どんな虹色のしっぽよりも素晴らしいことだと知ったからです。
それからというもの、森の動物たちは、コンタロウのことを「正直者のキツネ」と呼ぶようになりました。コンタロウは、その呼び名を誇りに思いながら、幸せに暮らしました。
そして、コンタロウは若い動物たちに、こう教えるのでした。
「きれいなしっぽや、すごい特技なんかより、正直な心を持つことが一番大切なんだよ。なぜって、正直な心こそが、本当の自分を輝かせる魔法の石なんだからね。」