物語の趣旨と内容の説明
この物語は、森に住む小さなこびとたちの日々の暮らしを通じて、簡素な生活の中にある幸せや豊かさを描いています。主人公のこびとが、華やかな都会の生活に憧れて旅に出るものの、最終的に自分の住む森の生活の素晴らしさに気づく過程を通して、物質的な豊かさよりも心の豊かさが大切であることを伝えています。
本文
深い森の奥に、小さなこびとたちが暮らす村がありました。木の根っこを編んで作った家々が、どんぐりの帽子をかぶったようにならんでいます。
村の中で一番小さな家に、ピコという名のこびとが住んでいました。ピコの家具は、木の実を半分に割った椅子と、キノコの傘でできたテーブルだけ。でも、ピコにはそれで十分でした。
毎朝、ピコは森の小川で顔を洗い、木の実や野イチゴを摘んで朝ごはんにします。そして、森の動物たちと一緒に歌を歌いながら、落ち葉を集めたり、木の実を拾ったりして過ごします。
「ピコ、今日も良い天気だね」とリスのチップが声をかけます。 「うん、お日様の光が気持ちいいね」とピコは笑顔で答えます。
ある日、村にやってきた旅人こびとのトンクから、大きな都会の話を聞きました。
「都会には、きらきら光る高い建物がたくさんあってね。夜になると、星のような明かりで街中が輝くんだ」
トンクの話を聞いたピコは、目を輝かせました。 「わあ、すごい!ぼくも行ってみたいな」
その夜、ピコは眠れませんでした。都会の華やかな光景が頭から離れません。 「ぼくの暮らしって、つまらないのかな...」
翌朝、ピコは決心しました。都会へ行って、自分の目で確かめてみようと。
「みんな、ぼく少しの間旅に出るよ」 「えっ、ピコが?でも、気をつけてね」と村のみんなは心配そうです。
ピコは小さな袋に必要最小限の物だけを詰めて、村を後にしました。
長い道のりを歩いて、ようやく都会に到着したピコ。目の前に広がる景色に、息をのみました。
空に向かってそびえ立つ高いビル。色とりどりの看板。たくさんの人々が行き交う賑やかな通り。ピコの目は、キラキラ輝いていました。
「すごい!こんなにたくさんの物があるんだ!」
ピコは興奮して街を歩き回りました。でも、しばらくすると少し疲れてきました。休む場所を探しますが、どこも人でいっぱい。やっと見つけた公園のベンチに腰掛けると、周りの音や光にだんだん圧倒されてきました。
「なんだか、頭がくらくらするよ...」
その時、ふと森の仲間たちの顔が浮かびました。チップとの朝の挨拶、鳥たちとの歌声、夕暮れ時にホタルと見上げる星空...
「みんな、元気かな...」
ピコは、不思議と胸が締め付けられるような気持ちになりました。
数日間都会で過ごしたピコは、たくさんの経験をしました。でも同時に、自分の村での生活が恋しくなっていきました。
「やっぱり、ぼくの場所はあの森なんだ」
ピコは、都会を後にして森への帰り道に就きました。
長い道のりを歩いて、ようやく見慣れた森に到着したピコ。深呼吸をすると、懐かしい森の香りが鼻をくすぐります。
「ただいま、みんな!」
ピコの声を聞いて、森の仲間たちが集まってきました。
「おかえり、ピコ!」 「心配したよ!」 「どうだった?都会は」
みんなの温かい歓迎に、ピコは胸がいっぱいになりました。
「うん、すごく大きくて、きれいで、たくさんの物があったよ。でも...」
ピコは少し考えて、続けました。
「でもね、この森の方がずっといいんだ。みんながいて、自然があって、ゆっくりと過ごせる。これが一番の宝物だってわかったんだ」
その夜、ピコは久しぶりに自分の小さな家に戻りました。木の実の椅子に座り、キノコのテーブルに肘をつきながら、窓の外を見つめます。
星空がきらきら輝いていました。都会の明かりとは違う、やさしい光。ピコは深く満足のため息をつきました。
「ここが一番落ち着くな。この小さな家と、森の仲間たち。これがぼくの幸せなんだ」
翌朝、ピコはいつもより早く起きました。小川で顔を洗い、森の中を歩きます。朝露に輝く草花、小鳥のさえずり、そよ風のささやき...
今までは当たり前すぎて気づかなかった森の美しさに、ピコは改めて感動しました。
「おはよう、ピコ!今日も良い天気だね」とチップが声をかけてきました。 「うん、最高の朝だね!」ピコは心から笑顔で答えました。
それからのピコは、毎日をもっと大切に過ごすようになりました。小さな幸せを見つけては、感謝の気持ちを忘れません。
時々、夜空を見上げながら都会のことを思い出すこともあります。でも、そのたびにピコは確信するのです。
「ぼくの宝物は、ここにあるんだ」
シンプルで小さな暮らしの中に、かけがえのない幸せがあることを、ピコは知ったのでした。
そして、森のみんなと一緒に、今日もまた楽しい一日が始まります。