はじめに
2025年3月期に過去最高業績を達成し、売上高2兆9118億円、営業利益1518億円を記録した鹿島建設。4期連続の増収増益を達成し、建設業界のリーディングカンパニーとしての地位をさらに強固にしています。
建設業界では「2025年問題」による人手不足や約90万人の就業者不足が深刻化する中、鹿島建設は技術革新とグローバル展開により成長軌道を維持しています。東京駅周辺の再開発プロジェクトや大阪・関西万博関連工事など、日本を代表する大型プロジェクトに数多く参画し、その技術力と総合力を発揮しています。
本記事では、鹿島建設の事業構造から最新業績、そして将来の成長戦略まで、投資判断や転職活動に必要な包括的な企業分析をお届けします。建設DXの推進状況や競合優位性の分析も含め、企業の真の実力と今後の展望を明らかにしていきます。
1. 事業構造と最新業績
鹿島建設は土木・建築・開発・海外事業を主力とする総合建設業です。2025年3月期の業績は極めて好調で、特に海外事業の成長が目立っています。
海外事業が大型工事の順調な進捗や買収した米建設会社の寄与により大きく伸長し、売上高1兆円を突破しました。国内建設事業も堅調に推移し、開発事業等の利益も増加しています。
事業別の特徴と業績について以下のように整理できます:
土木事業: ダム、トンネル、橋梁などの社会インフラ整備が主力。日本初の鉄道工事への資材納入から始まり、1899年に日本の建設会社初の海外工事を施工した歴史があります。風力発電やダムの再開発など環境関連事業への取り組みも強化しています。
建築事業: 超高層ビルの建設技術に定評があり、国内初の超高層ビル「霞が関ビル」を手掛けた実績を持ちます。六本木ヒルズ森タワー、GINZA SIXなど、日本を代表する建築物を多数建設しています。
海外事業: 世界20か国以上で100社以上の海外事業会社を展開し、グローバルなネットワークを構築。建築事業と開発事業の両面で現地のニーズに対応したサービスを提供しています。
開発事業: 不動産開発、大規模複合開発、都市再生プロジェクトを展開。収益基盤の多様化を図る重要な事業領域として位置づけられています。
2025年3月期の営業利益率は約5.2%を維持しており、建設業界の中でも高い収益性を実現しています。
2. PEST分析でマクロ環境を把握
鹿島建設を取り巻くマクロ環境を政治・経済・社会・技術の視点から分析します。
政治的要因(Political)
国土強靭化基本計画の推進により、防災インフラの整備需要が継続的に見込まれています。リニア中央新幹線や大阪・関西万博開催に向けた建設投資が追い風となっており、政府主導の大型プロジェクトが事業機会を創出しています。また、i-Construction政策により建設業界のICT活用が政策的に推進されています。
経済的要因(Economic)
2023年の建設投資額は前年比2.2%増の70兆3,200億円となり、市場は回復基調にあります。民間建設投資の増加傾向が続いており、特に物流施設や半導体関連工場の建設需要が堅調です。一方で、資材価格の高騰が収益圧迫要因となっています。
社会的要因(Social)
2025年には技能労働者数が47万人~93万人不足すると予測される深刻な人手不足が最大の課題です。高齢化の進行により、建設業で働く労働者の約34%が55歳以上となっており、技術承継が急務となっています。働き方改革の推進により、長時間労働の是正も求められています。
技術的要因(Technological)
建設DXの推進が業界全体で加速しており、2024年度の建設現場DX市場は586億円、2030年度には1,250億円に達する見込みです。AI、IoT、ロボティクスなどの技術活用により生産性向上が期待されています。
3. ファイブフォース分析で業界環境を分析
ポーターのファイブフォース分析により、鹿島建設の競争環境を評価します。
既存競合の脅威(中程度)
大手ゼネコン5社(鹿島建設、大林組、清水建設、大成建設、竹中工務店)による寡占状態が形成されており、技術力と資本力での差別化が重要です。各社とも高い技術力を持つため、価格競争よりもプロジェクトの規模や専門性による棲み分けが行われています。
新規参入の脅威(低い)
建設業は高い技術力、豊富な資本、長年の実績が求められるため、新規参入の障壁は極めて高いといえます。特に大型プロジェクトでは実績が重視されるため、スーパーゼネコンの地位は安定しています。
代替品の脅威(低い)
社会インフラや建築物の建設については代替手段が限定的であり、代替品の脅威は低いと評価できます。ただし、プレハブ工法や3Dプリンティング技術の進歩により、一部の建設工程では代替技術の影響が出始めています。
買い手の交渉力(中程度)
公共工事では価格競争が激しく買い手の交渉力が強い一方、大型の民間プロジェクトでは技術力や実績により差別化が可能です。顧客との長期的な関係構築により、交渉力の向上を図っています。
売り手の交渉力(中程度から高い)
建設資材の価格高騰により、サプライヤーの交渉力が高まっています。一方で、鹿島建設の規模と調達力により、ある程度のコストコントロールが可能です。
4. SWOT分析で現状分析
鹿島建設の内部環境と外部環境を整理し、戦略的ポジションを明確化します。
強み(Strengths)
- 技術力の優位性: 国内初の超高層ビル建設実績を持ち、最先端の建設技術を保有
- グローバルネットワーク: 22か国・地域50拠点での海外展開により、リスク分散と成長機会を確保
- 豊富な実績: 東京駅八重洲口再開発、丸の内駅舎復原工事など、象徴的なプロジェクトの施工実績
- 財務基盤の安定性: ROE 10.19%、自己資本比率36.4%と健全な財務体質
- 総合力: 企画・設計・施工・維持管理まで一貫したサービス提供体制
弱み(Weaknesses)
- 人材確保の困難: 業界全体の人手不足により、優秀な技術者の確保が課題
- 工事原価の上昇: 資材価格高騰により収益性への圧迫要因が存在
- 国内市場への依存: 長期的な国内建設需要の減少リスク
機会(Opportunities)
- 建設DX市場の拡大: 2030年度に1,250億円規模への市場成長
- インフラ老朽化対応: 高度経済成長期建設インフラの更新需要
- 海外展開の加速: 新興国でのインフラ需要拡大
- 脱炭素・環境関連事業: 再生可能エネルギー関連工事の増加
脅威(Threats)
- 深刻な人手不足: 2025年に約90万人の技能労働者不足
- 資材価格の高騰: 建設コスト上昇による収益性悪化リスク
- 自然災害リスク: 地震や豪雨による工事遅延・損害発生
- 長期的な市場縮小: 人口減少に伴う国内建設需要の減少
5. 就職・転職活動に関連する情報
鹿島建設は建設業界でも屈指の待遇と成長機会を提供する企業として知られています。転職や就職を検討する方に向けて、詳細な情報をお伝えします。
年収・給与体系
2024年度の決算短信によると、鹿島建設の平均年収は1,177万円となっており、スーパーゼネコンの中でも最高水準です。建設業界全体の平均年収544万円と比較すると、非常に高い水準にあります。
年代別の年収水準については、30歳で1000万円を狙えるとされており、若手のうちから高い収入を期待できます。職種別では管理職や施工管理職が特に高い年収を実現しています。
初任給・採用情報
2025年4月入社の初任給は、博士了35万円、修士了32万円、大学・高専専攻科卒30万円、高専卒28万円と設定されており、他業界と比較しても高水準です。
2025年度の採用予定数は約300名(事務系57名、技術系289名)で、積極的な採用を継続しています。
福利厚生・働く環境
充実した福利厚生制度が整備されており、以下のような制度があります:
- 住環境: 全国各地に社宅・独身寮を完備し、首都圏の寮と社宅の再編・リニューアル、託児所の開設など住環境の整備を推進
- 休暇制度: 年次有給休暇、結婚休暇、リフレッシュ休暇、記念日休暇など多様な休暇制度
- 健康管理: 健康管理センター、保養所、契約リゾートホテル、契約スポーツ施設の利用可能
- キャリア支援: 住宅融資制度、持株会など、従業員の資産形成を支援
労働環境と残業時間
2025年1月時点での平均残業時間は56時間となっています。現場勤務では残業が多い傾向にありますが、残業代は適切に支給されています。2024年から開始された残業規制により、働き方改革が推進されています。
求める人材像と面接対策
鹿島建設が求める人材像は以下の通りです:
- 技術力向上への意欲: 建設技術の最前線で活躍したい強い意志
- チームワーク: 多様なステークホルダーと協働できるコミュニケーション能力
- グローバル志向: 海外展開に積極的に取り組む姿勢
- 革新性: 建設DXなど新技術導入に対する柔軟性と学習意欲
面接で想定される質問と模範解答例
質問:「なぜ鹿島建設を志望するのですか?」
模範解答:「鹿島建設を志望する理由は三点あります。第一に、国内初の超高層ビル建設など、常に業界をリードする技術力に魅力を感じるからです。第二に、海外22か国での事業展開により、グローバルな視野で建設業に携わることができるからです。第三に、建設DXの推進など、未来の建設業を創造する革新的な取り組みに参画したいからです。私の○○の経験を活かし、鹿島建設の更なる成長に貢献したいと考えています。」
質問:「建設業界の課題をどう考えますか?」
模範解答:「建設業界最大の課題は人手不足だと考えています。2025年問題により約90万人の技能労働者不足が予想される中、この課題解決には技術革新が不可欠です。AIやロボティクスの活用による生産性向上、働き方改革による労働環境の改善、そして若手人材の育成が重要だと考えます。私自身も新技術の習得に努め、効率的な現場運営に貢献したいと思います。」
6. ファンダメンタルズ分析
鹿島建設の財務指標を分析し、投資判断の材料となる定量的評価を行います。
収益性指標
ROE(自己資本利益率)は10.19%と、建設業界の中でも高い水準を維持しています。営業利益率も約5.2%と安定しており、効率的な事業運営が行われています。
安全性指標
自己資本比率は36.4%と、建設業の特性を考慮すると健全な水準です。有利子負債比率も適切にコントロールされており、財務基盤は安定しています。
成長性指標
2025年3月期の業績は、売上高が前期比9.3%増、営業利益が同11.5%増と、堅調な成長を実現しています。特に海外事業の成長率が高く、地域分散によるリスク軽減効果も期待できます。
株価指標
PER(予想)は12.9倍、PBR(実績)は1.33倍となっており、建設業界の平均的な水準と比較して適正な評価レンジにあります。配当利回りは3.15%と、安定した株主還元を実現しています。
配当政策
2025年3月期の年間配当金は前期比14円増配の104円、2026年3月期は8円増配の112円を予定しており、継続的な増配により株主還元を強化しています。
7. 独自の企業分析結果
収集した情報を総合的に分析した結果、鹿島建設は以下の特徴を持つ企業であると評価します。
デジタル変革のリーダーシップ
建設業界のDX推進において、鹿島建設は先行優位性を確立しています。AI技術を活用したトンネル覆工コンクリート打設システムや四足歩行ロボット「Spot」の土木工事現場への導入など、最新技術の実用化で業界をリードしています。
持続可能性への取り組み
環境配慮型技術の開発に積極的で、大気中のCO2をコンクリートに固定するCO2-SUICOMの製造技術を実用化し、大阪・関西万博での活用を実現しています。これらの取り組みは、ESG投資の観点からも高く評価されます。
グローバル戦略の成功
海外事業での積極的なM&Aにより事業規模を拡大し、海外売上高が1兆円を突破しました。地域分散によるリスク軽減と成長機会の確保を同時に実現している点が評価できます。
人材投資の強化
定年再雇用者の大幅な処遇改善(年収ベースで前年度比10%以上の増額)や育児・介護支援制度の充実により、人材確保と働き方改革を推進しています。これは持続的成長の基盤となる重要な投資です。
8. 企業の将来性と5年後の展望
2030年に向けた鹿島建設の事業展望を、市場環境の変化と同社の戦略を踏まえて分析します。
建設DX市場でのポジション強化
建設現場DX市場が2030年度に1,250億円規模に成長する中で、鹿島建設は技術開発投資を継続し、市場シェアの拡大を図ると予想されます。自動化施工システムの普及により、人手不足問題の解決と生産性向上を実現していくでしょう。
海外事業の更なる拡大
現在22か国・地域で展開する海外事業は、新興国のインフラ需要拡大を背景に、さらなる成長が期待されます。特にアジア・太平洋地域での事業拡大により、売上高に占める海外比率の向上が見込まれます。
環境・エネルギー事業の成長
脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギー関連工事や環境配慮型建設技術の需要が拡大します。CO2吸収コンクリートなどの独自技術により、新たな収益源を創出していくと考えられます。
デジタルプラットフォーム事業への展開
建設DXで培った技術とデータを活用し、建設プロセス全体を最適化するプラットフォーム事業への展開も視野に入ります。これにより、従来の請負型ビジネスモデルからの脱却と高収益化を実現する可能性があります。
人材戦略の重要性
2030年代には建設技能労働者の大量退職が予想される中、DX人材の育成と働き方改革の推進が競争優位性の源泉となります。リモート施工管理技術の普及により、働く場所の制約を解消し、優秀な人材の確保を実現していくでしょう。
まとめ
鹿島建設は建設業界のデジタル変革をリードし、持続的成長を実現する優良企業として評価できます。以下の表で主要なポイントを整理しました。
鹿島建設の投資・転職判断要因
| 評価項目 | 現状評価 | 将来性 |
|---|---|---|
| 財務健全性 | 売上高2.9兆円、ROE10.19%と良好 | 海外事業拡大により安定成長継続 |
| 技術競争力 | 建設DXで業界をリード | AI・ロボット技術でさらに優位性拡大 |
| 市場ポジション | スーパーゼネコン首位の地位 | グローバル展開で競争優位性維持 |
| 人材環境 | 平均年収1,177万円、福利厚生充実 | 働き方改革推進で魅力度向上 |
| 成長性 | 4期連続増収増益を達成 | DX市場拡大とESG需要で成長加速 |
| リスク要因 | 人手不足と資材価格高騰 | 技術革新によるリスク軽減策実行中 |
投資判断: 中長期的な成長性と安定した配当により、建設セクターの中核的投資対象として推奨できます。特に建設DXとESG投資の観点から、今後5年間の成長期待が高い企業です。
転職判断: 高い年収水準、充実した福利厚生、最先端技術に携わる機会から、建設業界でのキャリア形成には最適な環境です。グローバルな成長機会と技術革新の最前線で活躍したい方には特に推奨します。
鹿島建設は、伝統的な建設業の枠を超えて、デジタル技術とサステナビリティを軸とした新たなビジネスモデルを構築しつつあります。建設業界の構造変化をリードする企業として、今後も注目すべき存在といえるでしょう。